東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1596号・昭28年(ネ)1594号 判決
別紙目録記載の建物全部が原告の所有であることは当事者間に争なく、原審及び当審における原告本人尋問の結果と原審における鑑定人飯田太吉、同五箇賢治各鑑定の結果とにより真正に成立したものと認められる甲第一号証(家屋賃貸借契約書)の記載、原審における証人堺辻子の証言、前記原告本人尋問の結果とをあわせれば、原告が昭和二十六年五月十四日右建物中道路に面した間口二間半奥行六間の部分を、被告鄭再出に対し期間は昭和二十七年十一月末日まで、賃料は一カ月金四万円毎月末日払と定めて賃貸し、被告山口豊子は右被告鄭の債務につき連帯保証人となつたことを認めるに十分である。
原告は右賃貸借は一時使用のためにするものであると主張する。借家法第八条に「一時使用ノ為建物ノ賃貸借ヲ為シタルコト明ナル場合」というのは建物利用の目的自体又は賃貸借をするにいたつて動機等、賃貸借が一定の期間に限定されるものであることを認めるべき客観的な事情がある場合をいうものと解すべきところ、これを本件についてみるに、前記証人堺辻子、当審証人細谷喜久の各証言及び前記原告本人尋問の結果によれば、原告はかねて本件家屋で堺屋という屋号で旅館業を経営して来たが病気(胸部疾患)のため休業し現在の肩書地で療養することとなり、建物はしばらく空家となつていたところ、被告鄭から同所においてパチンコ営業をするため前記店舗部分を賃借したい旨申出があつた結果、原告は原告の病気療養中だけ賃貸することとして本件契約をしたことがうかがわれ、前記甲第一号証中にも一時賃貸の文言が用いられていることが明らかであるが、パチンコ屋という商売の営業は、一般にいわゆるきわもの(際物)商売といわれるところの、三月節句の、あるいは五月節句の人形その他の飾り物のみの販売店を開くとか、又は歳の市を開くとかいうようなものが、季節季節の短期間の営業であると比較して、ある程度平常的継統的のものであるから、パチンコ営業のためということを当事者双方諒解の上の建物賃貸借は、夏場だけ海岸に設けるとか、お祭をあてこんで臨時に設けるとか他に特段の事情のないかぎり、(原審及び当審における被告鄭再出本人尋問の結果、原審検証の結果、並びに本件口頭弁論の全趣旨によれば、本件家屋は宇都宮駅前通りに面しており、被告鄭は賃借後直ちに建物をパチンコ遊技場に改造し、多くのパチンコ機械を備付けて営業を開始し、これらに数十万円の資本を投じていることが明らかであつて、この事実からみれば被告鄭としては駅前のにぎやかな人通りに期待し相当期間継統してこの営業をするつもりであつたものというべきである)もうそれだけで一時使用のためにしたことが明らかなものではないといわなければならず、これに加えて賃貸人の方に病気休業中空家となつているから賃借人の申込を承諾する気になつたとの事情があつたにしても、当時その病気がいつなおるかということは客観的には予測し得るものではないのであつて、やはり一時使用のための賃貸借をしたこと明らかなものというにあたるとするわけにはいかない。賃貸証書に一時賃貸の文言を用いてあつても同様である(建物所有者の病気休業中空家になつているからその期間中にかぎる特約のもとにとくに賃借申込に応じたとの事情は、期間満了の際の更新拒絶の、期間の定めのない場合の解約の、正当理由の要素のひとつに数えられ得ようかとは考えられる)。その他に本件が一時使用のためにするものであることが明らかな場合であることを認めしめる的確な証拠はない。
してみると本件賃貸借にはやはり借家法の適用があるのであつて、原告が期間満了前六月ないし一年内にあらかじめ更新の拒絶をし、しかもそれにつき正当の事由ある場合でなければ、原告としては単に契約に定めた期間が満了したとの一事によつては被告らに対し本件家屋の明渡を求めることはできないといわなければならない(原告は本件は一時使用のためにするもので借家法の適用がないとしてもつぱら期間満了による明渡を求めるのみであり、当審における裁判長の釈明に対しても、借家法の適用があるものとして、これによる更新拒絶又は解約申入による明渡は主張しないのである)。従つて被告らに対し本件家屋の明渡を求める原告の請求は失当である。